※ 人体文付有孔鍔付土器
<出典:南箕輪村HP>
はじめに
古来、お酒は祭りや儀式の際に欠かすことのできない重要なアイテムとして、人類に愛されてきました。
その自然の神秘ともいえる発生には諸説あり、猿が木のうろに置いた果物に雨水が合わさり、発酵したものを人間が口にした、という言い伝えはあまりにも有名です。
しかし、歴史上はっきりとしたお酒の起源はまだ解明されておらず、多くの歴史学者にとって大きな興味の対象となっています。
日本では、特に縄文時代にはすでにお酒が存在したという「縄文酒造論」を主張する声があり、実験考古学などの分野で縄文のお酒を復元する試みがなされています。
ここでは、そんな「縄文酒」の謎にフォーカスしてみましょう。
酒造りを思わせる考古遺物
縄文酒造論を裏付ける証拠としてよく引き合いに出されていたのが、口縁部の周囲にたくさんの穴があけられた「有孔鍔付土器」の存在が挙げられます。
この特殊な土器には他に太鼓として使ったという説などもありましたが、
内部からヤマブドウの種子と思われる炭化物が見つかった事例があること、特定の住居址で、穴に埋まった状態で安置されていた跡があることから、
土中で一定の温度に保つことを目的とした酒造用の容器であると考えられるようになりました。
口縁の小さな穴の数々は酒が発酵する過程で生成されるガスを抜くためのものであり、外気との接触を最小限に抑えるための工夫だと推定されています。
大規模な縄文遺跡として名高い青森県の三内丸山遺跡からは、「ニワトコ」という植物の種子が大量に出土しています。
ヨーロッパでは同種の「セイヨウニワトコ」の実を使ってワインを造ることが知られており、これが縄文酒の原料になったと考える研究者もいます。
また、同遺跡のニワトコ種子群のなかには、他にヤマブドウ・マタタビ・キイチゴ・ヤマグワ・サルナシ等々の果実が混ざっており、これらのいわば天然フルーツを用いた「果実酒」が縄文酒の正体だったという仮説が有力になっています。
縄文時代の材料でお酒は造れる
これらの発見例から、実際に縄文時代と同じ材料と方法でお酒を造るという実験が行われています。
この試みを通して分かったことのひとつは、これらの原料だけでは「糖度」が不足しやすいということです。
アルコール発酵には糖度が必要となるため、ニワトコやヤマブドウなどの天然果実をそのまま自然酵母で発酵させるには糖分が足りないのです。
そこで考えられることは、ハチミツなどの天然糖分を添加すること、または果実を乾燥させて糖分を凝縮し、それを煮出した汁をさらに煮詰めて糖度を上げた液体を発酵させる、といった方法です。
研究グループはこの方法によって実際にアルコール発酵に成功しており、縄文酒造の現実性を証明したのです。