はじめに
武士にとっての表芸は剣術。
戦場においては弓馬の術に槍などの長柄物が主兵装で、素手においては柔術で闘うなど。
いわゆる「武芸十八般」と呼ばれる武器術や格闘術を修めることが武士にとって必須とされてきました。
日本の武術は剣術を基本として組み立てられていることが多く、剣以外の武器術であっても剣術者を仮想敵として攻防の技が工夫されたものがしばしば見られます。
そんな中でも、時代とともに衰退していったものや、その秘匿性の高さから一般には浸透しなかったものなど、知られざる武器術が存在しています。
流派によっては「外物(とのもの)」、つまり科目外の特殊な術として伝承されたマイナーな武器術の数々。
今回はその中から、3種類をピックアップしてみましょう。
<出典:twitter>
長巻
南北朝時代~戦国時代頃まで、長大な「野太刀(のだち)」という戦場刀が使われていました。
江戸時代の武士の用いた標準的な刀身の長さは概ね70cmほどでしたが、野太刀はゆうに1mを超える刀身長をもち、なかには2m超というとてつもない長刀も存在しています。
俗に「斬馬刀」などと呼ばれるのがこれで、その重量ゆえ扱うのには相当な筋力が必要だったと考えられます。
この野太刀は次第に、取り回しをしやすいよう、刀身の半ばほどまで縄や柄糸を巻き、持ち手を広くとって重心を分散するように工夫されていきます。
これを「長巻(ながまき)」といい、見た目は柄と刀身の長さがほぼ同じの薙刀のようなものでした。
戦場での主兵装が薙刀から槍、弓から鉄砲へと変遷していく過程で、軽快な動作ができない長巻はやがて使われなくなっていったとされています。
<出典:ガットバスター>
寸鉄
「身に寸鉄(すんてつ)も帯びず」ということわざの元になった武器です。
まったくの丸腰を意味する通り、寸鉄は小さな隠し武器として工夫されました。
短い金属の棒の真中にリングがついており、中指にリングをはめて手のひらの長さに棒を隠します。
そのまま握り込むと拳の両端から棒の先端が突出し、これをもって打撃や刺突を行います。
刀がない、いざというときのための護身用武器だったといいます。
<出典:国際水月塾武術協会>
鼻捻
鼻捻(はなねじ)はシンプルな短い棒ですが、暴れる馬を取り押さえるために鼻輪に通してテコの原理で引き倒す道具を武器としたものです。
身近なものであったため、即座に護身具としやすく、また小太刀や十手といった短柄武器の技を応用できました。
基本的には打撃を中心とした武器ですが、体術と併用して相手を取り押さえたりする、逮捕術のような使い方をされたとも考えられます。
現存品には螺鈿や漆で美しく装飾されたものも多くあります。