はじめに
明智凞子(あけち ひろこ)は、本能寺の変で織田信長を討った男・明智光秀の妻です。
妻木範煕の長女として生まれた凞子は、美人で頭も良く、優しいと評判の娘で、光秀の許嫁になりました。
しかし、そんな凞子に疱瘡という病が襲いかかります。
病気自体は無事に治ったものの――美貌が失われてしまいます。
凞子は、ここで腐ってしまってもおかしくはない状況でしたが、凞子は内面的な美しさは失わず生きていきます。
明智光秀という夫
病気によって奪われてしまった美しさには、凞子だけでなく父親もガッカリしました。
そして「凞子を嫁がせても、これでは追い返されてしまう!」と思った父親は、凞子の妹を替え玉にして光秀のところに嫁がせたのです。
当時は婚約者の顔を知らないまま、結婚する日にやっとはじめまして、というのが普通でした。
なので、妹を代わりに嫁がせたとしても、光秀にはバレない――はずでした。
妹の態度を見て、「どうも様子がおかしい……」と思った光秀は、妹から真実を聞き出します。
すると光秀は、「私のこの人生で、妻にすると決めたのはあなたの姉だ」と妹を家に帰して、凞子を妻に迎えたいと改めて申し込みます。
こんな出来事があって結婚した光秀と凞子。
熙子は「自分を妻にと望んでくれた光秀に、一生懸命尽くそう」と思います。
その健気な思いを、あるエピソードが物語っています。
お金がない!
明智光秀と言えば“織田信長の家臣”というイメージが強いですが、それまではなかなか苦労していました。
それこそ、家で仲間と集まった時に、お酒の一杯でも出そうと思っても出せないほど貧しい生活をしていたのです……。
ある日、凞子はどこかに出かけていきました。
そして、どうしてか頭巾を被って帰宅すると、家に集まった光秀の仲間たちに豪華なお酒とおつまみをご馳走します。
これをおかしいと思った光秀は、皆が帰った後で凞子にどういうことかと聞きます。
凞子は被っていた頭巾を取りました。
すると、腰まではあったはずの長い髪が、肩まで短くなっていました。
光秀に恥をかかせたくないと思った凞子は、自分の髪を売ってお金を作り、それでご馳走を用意したのです。
この健気さにとても感動した光秀は、当時は当たり前だった側室を一人もつくらず、凞子たった一人を愛し続けました。
凞子の魅力とは
光秀が愛した凞子の魅力とは、彼女の健気さと、“女性のいのち”とも言われる髪をバッサリと売ってしまうという強い心だったのでしょう。
ちなみに、疱瘡にかかる前の凞子の美しさは、彼女の子どもたちに受け継がれました。
戦国の美女として名前が挙がる、あの細川ガラシャがその代表です。