はじめに
世界に類を見ないほどの切れ味と美しさを兼ね備えているという日本刀。
その刀身の性能や拵え(こしらえ)と呼ばれる外装の美術性については取り沙汰されますが、具体的にどのような素材で造られ、どのような機能があるのかはあまり知られていません。
武器としての日本刀は、「携行性」「即戦性」「汎用性」の三つをバランスよく兼ね備えており、刀剣類としては非常に取り回しが便利であることに注目されます。
江戸時代の武士が使用していた打刀(うちがたな)
携行性:腰に差したまま安定して持ち運びができる
即戦性:抜けばそのまま戦うことができ、居合などにより予備動作なしで対応できる
汎用性:刀一本であらゆる状況下でさまざまな相手と戦える
そんな日本刀の機能を支え、刀身の性能を十二分に発揮させるために重要なのが鞘や柄といった外装部材です。
ここでは、日本刀の「拵え」の素材と機能に焦点をあててみましょう。
鞘の素材は「朴」
刀が収納されているケースである「鞘」。
実は日本独自の技術がふんだんに盛り込まれた高機能なアイテムなのです。
まず、素材としては「朴(ほおのき)」をベースとしています。
朴は油脂分が少ないうえに粘りがあり、材が均質で軽いため刃物を収納するのに最適な特性を持っています。
また、外側には漆を塗ることによって強度と撥水性を両立し、同時に高い装飾性をも醸し出すことに成功しました。
柄には「鮫皮」を使用
日本刀の柄は菱形が連続したような独特の景観を生み出し、外見上の大きな特徴のひとつとなっています。
これは木製の柄材に糸を巻き締めて造られていますが、柄木と柄糸の間には「鮫皮」を設置しています。
ワサビおろしなどで見られる顆粒状の突起が集合した鮫皮は、正式にはサメではなく「ガンギエイ」というエイの一種の皮のことです。
柄を握ったときの滑り止めになり、突起によって柄糸もしっかりと固定することができるうえ、外見も日本人の美意識に適っていたため重宝されました。
ガンギエイは南方の海で漁獲される、いわば輸入品であったため大変貴重なものとされていました。
「はばき」によって鞘から刀が抜け落ちない
刀身の根元の方、ちょうど鍔(つば)との境に一寸ほどの長さで刀身を取り巻く金属部材が装着されています。
これを「はばき」といい、鞘の内径をごくわずかに上回るようにできているため、その摩擦で刀身が鞘から簡単には抜けないようにする機能を持っています。
世界的に見ても珍しいものであり、これによって日本刀はそのままひっくり返しても鞘から落ちることはありません。
抜く際には親指で鍔を押し、はばきを鞘から押し出す動作が必要で、これを「鯉口を切る」と表現しています。