はじめに
古代中国に端を発するという、東洋の宇宙観「陰陽五行」。
すべてのものは「陰」と「陽」の性質に分けられ、宇宙は「木・火・土・金・水」の5種類のエレメントによって成り立っている、という考え方です。
この思想は日本にももたらされ、有名な「陰陽道」などの基礎理論になったといいます。
また、陰陽五行には相性のよい組み合わせと、そうでない組み合わせとがあり、あらゆる事物にその理論が応用されてきました。
日本文化はことにその影響が強く、茶道や華道、料理なども陰陽五行に当てはめて説明されています。
そしてそれは、剣術という身体文化にも深く関連しています。
ここでは、そんな陰陽五行と剣術の知られざる関係についてお知らせします。
剣術の構えは陰陽五行に対応している
剣術には無数の流派があり、「構え」にも各流派が工夫を凝らした、さまざまなものが存在しています。
しかし、構えのバリエーションは突き詰めると概ね5種類の系統に分類することができるとされ、これを一般に「五行の構え」と呼んでいます。
剣を頭上に振りかぶった「上段の構え」、剣道などで見られる剣先を真っ直ぐ相手に向ける「中段の構え」、剣先を下げる「下段の構え」、右肩に担ぐように構える「八相の構え」、剣先を大きく右後ろに引いて刀身を身体に隠すようにする「脇構え」の5つがそうです。
そしてこれらはそれぞれに五行の特性が割り振られており、構えの性質とも対応しています。
火の構え:激しい気迫が必要な攻撃に特化した上段
水の構え:どこにも偏らず攻防自在な中段
土の構え:大地に根ざしたように足元の守りを固めた下段
木の構え:相手の攻撃に合わせて臨機応変に動き、大木がそびえるように構える八相
金の構え:刀身を隠しながらも間合いに入ったり斬り上げることのできる攻撃的な脇構え
また、八相は別名「陰の構え」、脇構えは「陽の構え」とされ、陰陽五行がそのまま剣術の構えの特性を表していることが分かります。
剣道の「形」にも陰陽五行が応用されている
五行には相性がよいものとそうでないものとがあるとすでに述べましたが、剣術の基本戦術には相手に対して優位な構えをとる、というものがあります。
もちろん一概にどちらが強い、という単純な問題ではありませんが、理論として実によく組み立てられています。
例えば、「火」の上段には「水」の中段で対するのがセオリーのひとつとなっています。
これは水が火を消し止める「水剋火(すいこくか)」という考え方に基いており、この反発する組み合わせを「五行相克(ごぎょうそうこく)」と呼んでいます。
同様に、「水」の中段に「土」の下段で対する「土剋水」、「木」の八相に「金」の脇構えで対する「金剋木(ごんこくもく)」などがあります。
現代剣道では「日本剣道形」という形が伝わっていますが、この中には五行の構えがすべて含まれており、七本ある太刀の形のうち、四本目から六本目までにこの五行相克を体現した技が見られます。
さまざまな文化に息づく陰陽五行。
現代でも意外なものにも使われているかもしれませんね。