はじめに
相撲やレスリング、ボクシングや拳法等々、徒手での格闘術は世界中に存在しています。
さまざまな危機に対して自分の身を守るために必要な技術は、道具も武器もない状態でこそ真価を問われました。
日本には、そんな徒手格闘術のひとつとして「柔術」が伝わってきました。
いまやオリンピック種目にもなっている「柔道」の原型となった武術であり、剣術と同様に日本古武道を代表するジャンルといえるでしょう。
元来、戦場で鎧武者と素手での格闘を行う過程で発達した技であるとされ、柔道同様に特に投げ技に特徴があるイメージが流布しているようです。
しかし、古流の柔術は投げ技だけではなく、実に多様な技法をもった総合的な格闘術でした。
ここでは、「投・極・締・当」とも呼ばれる柔術に含まれる四種類の技法体系についてご紹介したいと思います。
柔術の技・「投げ技」
いわずと知れた「投げ技」は、柔道の試合などでも馴染み深い動作でしょう。
畳の上で受身をとれるように投げる柔道とは異なり、柔術では鎧を着けて野外で戦うのが本来のシチュエーションである場合があります。
重い甲冑を着用したまま地面に叩きつけられたときのダメージは想像に難くなく、「投げ」は死命を制する技だったと考えられます。
また、太平の世になった後も相手を傷付けることなく即座に無力化することができるため、逮捕術などにも積極的に導入されています。
柔術の技・「極め技」
「極め技」とはいわゆる関節技を指しています。
人間の関節に対して、曲がらない方向に力を加えることで激痛を与え、その動きを制圧するものです。
これも力加減によっては相手を殺傷せずに済み、特に武器を持った相手からその武器を取り上げたり、その場で確実に相手の動きを止めなくてはならない場合などに有効です。
これも逮捕術としての優れた適正を持っています。
柔術の技・「締め技」
「締め技」は胴や首を圧迫する技のことです。
柔道にも存在しますが、非常に危険なため十分な注意が必要とされています。
正確には首の気道ではなく、動脈を圧迫して脳への血流を止めて酸欠状態にし、失神させる技法群を指しています。
これも攻撃できる部位が限られている鎧武者同士の戦いの中で発達してきたと考えられ、平時の技としても有効でした。
柔術の技・「当身技」
投げや締めなどのイメージが強い柔術ですが、実はパンチ・キックといった打撃系の技も存在しています。
「当身(あてみ)」と呼ばれる技法群がそうで、危険なため柔道の試合では除外されています。
流派によってさまざまな技が研究され、鎧の上から衝撃を加える打撃や、現在でいうところのハイキックのような技まで存在したといいます。