はじめに
約1万2000年の長きにわたり続いた縄文時代。
土器を使い始めた時代であり、精緻な石器や土器、複雑に加工された木製品などはもとより、高度な精神活動を感じさせる数々の装飾的な遺物が発見されていることでも有名です。
そんな縄文人の生業活動を支えたのは、自然の恵みを遺憾なく享受したバラエティー豊かな食材の数々でした。
狩猟採集といえば、収穫が保証されるわけではない不安定な生活をイメージしがちですが、縄文人は意外なほど多くの食材を満遍なく調達していました。
そんな縄文時代の食材にはどのようなものがあったのか、遺跡から発見された痕跡を手がかりにしてみてみましょう。
植物性、動物性の食材を有効に利用していた
縄文時代を代表する食材のひとつが、ドングリです。
気候変動によって堅果類を実らせる樹木林が拡大したことにより、縄文時代には安定した食糧源として大いに利用されました。
そのままでは渋みが強くて食べられないため、煮沸などの工程を目的として土器が発達したともいわれています。
現在でいうところの山菜類も最大限に活用したと考えられ、遺跡からはヤマブドウやニワトコ、コクワやキイチゴなどの天然フルーツの種子も多数見つかっています。
動物の肉もよく食したという証拠に、シカやイノシシなどの獣骨も出土します。
縄文時代には弓矢も使用されていたため、食料を確保するためにハンターとして活動していたことがうかがえます。
獣類だけではなく鳥類や爬虫類等々、食べられるものは何でも食べたと考えられていますが、組織的に効率のよい狩りをして集団を養っていたと予想されます。
多種類の魚介類も食べていた
縄文時代の生業を表すとき、狩猟採集という言葉がよく使われますが、正確にはこれに「漁撈」が加えられます。
川や海などで魚介類を捕獲して食することが盛んに行われていました。
漁の方法はさまざまで、骨角製の釣針や銛先などが遺跡から出土し、魚網を沈めるための錘(おもり)を使っていたことも分かっています。
海の漁では舟を漕ぎ出して大型の獲物を狙ったと考えられており、その証拠にマグロの骨がしばしば出土します。
タイやサケ、スズキやサメなども食用としており、おもしろいところではフグを食した痕跡まで見つかっています。
また、「貝塚」として有名な貝類の大量採集も知られており、子供でも用意に手に入ることから集団が総出で潮干狩りのようなことをしたのではと考えられています。
縄文人は自然の恵みをうまく活用して、意外なほど豊かな食生活を実現していたのです。