<出典:wikipedia>
一体この記事を読む方の中の何人が「歓喜天」を見たことがあるでしょうか。
仏像なのに仏像っぽくない姿形で、まず人目にさらされる場所で祀られることのない仏像です。
仏像好きの人に、「歓喜天が祀られているよ」と言うと必ずといっていいほど「え、そうなの?」と目を輝かせます。
なかなか出会う機会のないこの仏についてご紹介しましょう。
歓喜天の見た目
単身像もありますが、日本では象頭人身の男神と女神の双身像が一般的です。
そう、顔が象なのです。
通常2人は向かい合って互いに相手の右肩に顔をのせ、立ったまま抱擁しています。
男女ともよく似ていますが、女天が冠をかぶり、ブレスレットとアンクレットをしていること、そして両足とも男天の足先を踏んでいるのが目印です。
男天は冠がなく、袈裟をかけ、両天ともに裙(くん)と呼ばれる巻きスカートのようなものを着けています。
2天の顔は、男天が象で、女天がイノシシの場合もあります。
一般に双身歓喜天の彫像は、小さめの像です。
円筒形の厨子に安置され、油をかける特別な祈祷の方法のためです。
日本ぽくない歓喜天の起源とは
歓喜天の顔が人間の顔ではなく象だったりすることから、おそらく予想をしておられることと思いますが、歓喜天の起源はインドにあります。
もともとインド神話の神で、ヒンドゥー教から仏教に取り入れられたのです。
歓喜天は基本的に2人で一人の神さまであり仏さまなのですが、男天と女天のうち、本当の神は女天のほうです。
ヒンドゥー教では、男天はむしろヴィナーヤカと呼ばれる魔物だったのです。
女天はそれを調伏しようとしていた十一面観音の化身の女神でした。
ところが、魔物はその女神のことが好きになってしまったのです。
女神はそこで仏法の信仰と引き替えにその魔物の欲望を鎮めるために抱擁すること申し出ます。
魔物は十一面観音と抱擁して自分の欲望を堪能し、仏教の素晴らしさを認めて帰依しました。
そしてその時の2人の様子を一対にして双身の像を歓喜天と称するようになったのです。
仏教の世界においては天部に属し、韋駄天の兄弟となって魔障を取り除く非常に強力な神さまとなりました。
「聖天(しょうでん)さま」と呼ばれることもあります。
困難を取り除いてくれることから、何かを断つ祈願を成就させるほか、夫婦和合や、子授けの神様としても有名です。
歓喜天は秘仏がほとんど
通常、歓喜天は秘仏とされて、一般には公開されません。
そのために実物を見た人は多くありません。
日本の仏像ではまず他にみることのない男天・女天が抱擁し合う像は、性的な表現に繋がるため、誤解されないよう秘仏とされて、一般に双身歓喜天像が公開されることが少ないのです。
歓喜天を見るなら
「じゃあ、歓喜天を見ることはできないのか」とがっかりしてはいけません。
どうしても歓喜天に会ってみたい方は、以下の場所を訪れてはいかがでしょう。
【鎌倉国宝館(青梅聖天社)の歓喜天】
神奈川県鎌倉市の鶴岡八幡宮境内の東側にある市立博物館で歓喜天に会うことができます。
鎌倉市域、近隣の社寺の文化財がここに寄託され、保管・展示されているのです。
鶴岡八幡宮の西隣にある青梅聖天社の本尊・双身歓喜天は、ここに保管されています。
象頭人身の男神と女神がお互いに両腕を相手の腰部分に回して向かい合い、顔を見つめあう姿は、歓喜天を一度は見たいという人の期待を裏切りません。
歓喜天像としては比較的古く大型のものです。
通常、夫婦和合のご利益があるので知られる歓喜天ですが、こちらの像は、峠を往来する人々の安全を願って祀られたものだと考えられています。
いつかは歓喜天に直接会ってお参りしたいとは思いませんか。