長寿大国の日本。
2017年における平均寿命は、男性が81.09歳、女性が87.26歳でした。
医学の発達、食文化の変化、疫病のコントロール化などの結果でしょう。
そんな状況が当たり前の現代ですが、今から200年ほど前の日本の平均寿命は驚くべきものでした。
1771年から100年間の平均死亡年齢
江戸中期までは、著名人の記録以外に一般の人々の死亡年齢の記録がありません。
しかし、岐阜県大野郡宮村のある寺に、江戸後期からの一山村のほぼ2万人の住民の過去帳が残されていました。
そして、それを研究した医師・須田敬三氏の分析により、その頃の日本の一部の人々の平均寿命が確認されました。
須田氏の研究によれば、上記の100年間における平均死亡年齢は、男28.7歳、女28.6歳。
そして饑饉や疫病があった時の平均死亡年齢は、なんと17.8歳という異常な数値でした。
その理由は、乳幼児死亡率がとても高かったから。
この時期の0歳から5歳の幼い子供たちの死亡率は全死亡率の70~75%を占めていたのです。
危険な年齢を過ぎれば、人生70年も夢じゃない
ただし、乳児死亡を除外すれば、江戸時代の人々も60歳を超える寿命の人は少なくありませんでした。
江戸時代の60歳の人の平均余命は14年。
つまり74歳くらいまで生きられたことが分かっています。
現代の平均寿命にもぐっと近づいているのがわかりますね。
実際、江戸時代には、80歳、90歳代の高齢者もかなりみられました。
中には百歳を超える人もあり、日本人の長寿の傾向はそのころからあったわけです。
著名人にみる寿命
浮世草子作者の井原西鶴は享年51、俳人・松尾芭蕉は50と、彼らの生涯はまさに「人生五十年」です。
一方、『養生訓』の貝原益軒(かいばらえっけん)が亡くなったは85歳、『蘭学事始(らんがくことはじめ)』の杉田玄白も85歳、『南総里見八犬伝』の滝沢馬琴は82歳、『富嶽三十六景』の葛飾北斎は90歳という長寿でした。
「なんだ江戸時代も、長生きする人は結構してるな」と思うかもしれません。
しかし、実際の江戸時代の社会と文化とは、無数の幼い命の犠牲があり、命をふるいにかけられて残った人々の文化だったのです。
生き延びることが過酷な時代
先ほどの須田氏による研究で人々の死因を見ると、常に1、2位を占めているのは「虫」などと記された小児病、次が疱瘡、赤痢、腸チフスなどの急性伝染病でした。
これらにかかったのも大半は乳幼児です。
幼い子供たちの大量死亡こそ、江戸時代の農民の平均寿命を28歳に押し下げていた原因です。
82歳の寿命の人がいる中で、平均寿命が28歳。
この数字のギャップが、いかに過酷な時代だったかを表しているのです。