龍神に守られし「宇治の宝蔵」に納められた宝とは

<出典:wikipedia

日本の御伽草子などに登場する不気味で魅力的な秘密の蔵「宇治の宝蔵」。

藤原道長の息子の関白・藤原頼通(よりみち)が、1052年に宇治の別荘を寺に改めた平等院の阿弥陀堂(鳳凰堂)の南西にあったとされる経蔵のことをいいます。

経蔵とはお経を納めておく蔵で、この宇治の宝蔵の鍵は藤原氏の氏長者(うじのちょうじゃ/氏の代表者)が代々受け継いでいたそうです。

蔵の番人は龍神

経蔵には一切経の経典と共に、藤原摂関家に代々伝えられてきた宝物が収納されているという噂でした。

毎年3月3日の一切経会のときか、新しく藤原氏の氏長者が決まった時の儀式のときだけ、蔵は開扉されました。

身内の者以外の立ち入りは禁じられ、その中に収められている物については、秘中の秘だったそうです。

しかも、死後に龍神となって宇治川に住んだという藤原頼通が、丑の刻になると川から姿を現して経蔵を見回ったというほどの最高セキュリティーでした。

宇治の宝蔵の収蔵品

見ることは出来なくても、収蔵されていたという噂になった奇宝のリストが以下のものです。

【『源氏物語』の「雲隠(くもがくれ)」の巻】
紫式部の名作『源氏物語』の中に、「雲隠」と呼ばれる巻があったとされています。
それは、主人公の光源氏が出家して亡くなるまでの期間を描いた巻のはずだったのですが、本文が存在しません。
その理由は、それを読んだ人々があまりに嘆き悲しみ、この世をはかなんで出家することが絶えないため、宇治の宝蔵に納めてしまったから、といわれています。

【山上憶良(やまのうえのおくら)の幻の自選歌集】
奈良時代の社会派万葉歌人であった憶良の歌は、万葉集でのみ見られます。
彼の自選歌集は未だ発見されていませんが、実は宇治の宝蔵にあるといわれています。

【中世三大妖怪その1 酒呑童子(しゅてんどうじ)の首】(『大江山酒天童子絵巻』)
源頼光によって退治された丹波の大江山の鬼の頭目・酒呑童子の首は、帝がご覧になったあと、大変貴重なものとして宝蔵に保管されたといわれています。

【中世三大妖怪その2 大嶽丸(おおたけまる)の首】(『たむらのさうし』)
鈴鹿山に住み神通力を操った鬼神、大嶽丸。
坂上田村麻呂が二度首を落とし、二度目に落ちた首を宝蔵に納めたとされています。

【中世三大妖怪その3 玉藻前(たまものまえ)の遺骸】(『玉藻前草子』)
妖狐・九尾の狐は美しく頭の良い玉藻前に変身して鳥羽上皇をたぶらかし、寵愛を受けていました。
陰陽師・安倍泰成(あべのやすなり)はこの正体を見抜き、討伐。
遺骸は宇治の宝蔵に納められることとなりました。

宇治の宝蔵は、南北朝の動乱で建物と中の収納物が消失するまでは、現世のさまざまな奇宝が収納されていたのだそうです。

その実体は・・・?

宇治の宝蔵にまつわる話は、実在した経蔵と想像上の宝蔵が混ざり合ってできたものです。

宇治の宝蔵は、お伽草子など日本の古典文学の間で作品を超えて共有された、不思議な宝蔵。

実在した経蔵には経典などの藤原家の秘宝が納められ、皇族や藤原氏などが身内だけで秘密の儀式を行ったという・・・。

その秘密主義のために多くの人々の想像力がそのような噂や伝説を生み出したのかも知れません。

見たいのに、見れない宝物――。

想像力たくましい昔の人々は諦めきれずにこう言ったのです。

「それは、宇治の宝蔵にあるんだよ」と。

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