はじめに
武士にとっての剣術は、自己防衛の手段というだけではなく、心身を練磨して真の強さを身に付ける修養の道でもありました。
古来より、すぐれた剣術流派はただ単に敵を打ち倒すだけではなく、人格や品位を高めていくことを教える崇高な哲学でもあったのです。
したがって、達人と呼ばれる剣士たちは強いだけではなく、「和」を尊ぶ賢明さを体現した人格者が多くいました。
そんな剣術流派の中でも、多くのすぐれた門人を輩出したのが「直心影流(じきしんかげりゅう)剣術」です。
派手さはない質実剛健な剣術ですが、この流派からは誰もがよく知る幕末の大人物が多く輩出されています。
今回はそんな、直心影流剣術についてご紹介したいと思います。
直心影流剣術とは
最古の日本剣術発祥の地のひとつとされる鹿島(現・茨城県)。
直心影流剣術は、「鹿島の太刀」と呼ばれる剣術が母体となって生まれました。
そのため直心影流は正式名称を「鹿島神傳直心影流(かしましんでんじきしんかげりゅう)」といいます。
開祖は戦国時代の人ともいわれていますが、「直心影流」の流派名を名乗ったのは17世紀終わりごろの第七代宗家・「山田光徳」と伝わっています。
直心影流の特徴
江戸時代。
直心影流は、最も早く防具と竹刀を使用した稽古を導入した流派として有名になりました。
この稽古法はまたたくまに全国に広がり、剣術が現代剣道へと至る道のさきがけとなりました。
現代にも伝わる直心影流の特徴としては、「振り棒」と呼ばれる超重量の巨大木刀による素振りや、春夏秋冬の気になぞらえた四つの形「法定(ほうじょう)」を通して行われる「呼吸」を重視した稽古にあります。
形の中で繰り返される独特の動作には、上記のように呼吸の力を練り上げるためのものも多く、ゆえに直心影流の剣術形は「動く禅」と形容されることもあります。
直心影流を学んだ幕末の有名人たち
直心影流は江戸時代後期には、諸藩で広く修行されていたためとてもメジャーな剣術流派でした。
そして、直心影流を学んだ門人の中には、よく知られた幕末の有名人もいたのです。
たとえば幕末に「剣聖」と称えられた講武所師範の「男谷信友」。
明治の天覧兜割りをただ一人成功させたという幕臣「榊原鍵吉」。
江戸無血開城を実現させ、坂本龍馬の師としても有名な「勝海舟」。
特に勝海舟は、自身の胆力は直心影流の稽古によって養われたと公言しているほどで、まさしく時代を変える原動力を育てた流派だったといえるでしょう。
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