<出典:近代日本のこんな歴史>
はじめに
史上最大の戦艦として名高い旧海軍の「大和型」。
「戦艦大和」といえば、日本海軍の象徴といっても過言ではありません。
当時の日本の造船技術の粋を結集したとされる設計で、世界最大の口径をもつ艦砲を支える巨体と重装甲、そして3300名以上にも及ぶ多数の兵員が乗り組んでいたことでも知られています。
しかし大和型はただ巨大なだけではありませんでした。
豪華な洋風の内部調度が特徴的だった大和を「大和ホテル」、和風調度にこだわりのあった武蔵を「武蔵旅館」と、やや皮肉を込めて例えられるほど設備が内部が充実していました。(もちろん艦隊旗艦たる威厳を保つためかもしれませんが)
しかし、それらの設備のなかには贅沢品と誤解され、その実用面での搭載理由がよく知られていないものも存在します。
ここでは、大和の設備のうち三つを例に、その実用面についてお伝えしたいと思います。
艦橋のエベーター
艦長をはじめとした指揮官が戦闘時に集う指令所を擁する「艦橋(ブリッジ)」は、艦が大型化するに比例して高さを増していきました。
大和型では艦体の大きさの割にはコンパクトにまとまっていると評価されていますが、それでも9層40メートルにも達する高さとなっています。
戦艦大和の艦橋には一部の人間しか使用を許されないエレベーターがあり、これを艦の贅沢さのひとつとして挙げられることがありますが、現実的な実用面での装備です。
艦橋のエレベーターは大和型だけではなく、ほかの戦艦でも搭載されていました。
やはり高層となる艦橋の上部に迅速に到達すべきこと、また使用者が限られるのは指令所に入れる指揮官が限定されていることから当然の安全策だったといえるでしょう。
空調設備
大和型には冷暖房の空調設備が搭載されていました。
居住性という面でも過酷な環境下で勤務していたほかの艦の乗員からは、羨望の目で見られたといいます。
しかしこれも、乗組員の快適さのためだけではなく実用に根ざした設備が根拠となっています。
暖房は熱源の有効利用、冷房の最優先課題は「弾薬庫の冷却」にありました。
巨大な業務用冷凍機のような設備を設けて、弾薬の保守を行っていたのです。
この弾薬庫を冷却していない時だけ、冷房へと転用していたといいます。
ラムネ製造機
大和には「ラムネ製造機」があったのはたいへん有名な話です。
その正体は消火用の二酸化炭素発生装置が元になったもので、大和型以外でもその装置を装備していればラムネ作りに転用することが可能だったそうです。
甘くて爽やかな清涼飲料水は将兵たちに大好評で、ひとときの安らぎをもたらしたといいます。