はじめに
「居合(いあい)」という武術の名前を耳にしたことがおありでしょうか。
フィクションの世界では、たとえば『座頭市』が居合の達人として知られています。
なんとなく、鞘に納めたままの状態から剣を抜き放ち、一拍子で斬るといったものをイメージしますが、実際には居合がどのような武術であるのかはよく知られていません。
時代劇などでおなじみ、しかしその実態にはベールがかかっている、そんな居合についてお知らせしたいと思います。
居合とは
そもそも「居合」とは、「“居”ながらにして急に“合”する」「居合わせる」ための技であり、すなわち突然敵に襲われたときの対処法を意味しています。
また、立った状態で闘うことを「立合」といいますが、これとは逆に座った状態からの戦闘を「居合」と称する場合もあります。
これは畳の上で正座をするという日本文化独特のシチュエーションであり、柔術などでもよくみることができる技法です。
ちなみに、現代武道の合気道でも同様に正座での技があり、もちろん居合にも座り技が存在します。
居合の始祖は室町時代末期の兵法者、林崎甚助(はやしざき じんすけ)とされており、元来は長刀で短刀にどう対処するかという課題への工夫に始まったものと伝わります。
つまり、鞘の納めたままの抜きにくい長刀をもって、近間から高速で突いてくる短刀をどのように迎撃するか、という状況を想定してのものだったのです。
そのためには迅速に抜刀し、敵より早く攻撃するかあるいは防御をする必要があり、そのために「抜きながら斬る」という抜刀術の技法が確立されました。
この抜刀術は当初は戦場で用いる、刃を下向きにして腰から吊るす形の反りが深い「太刀」による技でした。
しかし江戸時代に刃を上向きにして腰帯に差すタイプの「打刀(うちがたな)」が標準となると、居合もそれにともなって帯刀状態から行うように改変されていき、現代にまで伝わっています。
居合の技法例
居合の基本的な戦術は、初撃で先制あるいは防御、二撃目または三撃目でとどめという構成になっています。
そのためには相手の敵意や攻撃態勢を察知し、抜くと同時に斬り付ける「抜き付け」という技法が居合の根幹となります。
鞘内を滑走させるように刀を抜き出しながら加速させ、強力な片手斬りによる初太刀で迎撃するため、居合は「近間の弓鉄砲」ともいわれ剣術者にとっても厄介な武術と認識されていました。
多くの剣術流派でも裏技として居合を伝えており、武士が身につけるべき武術のひとつとして修行されてきたのです。
しかし、居合は別名を「鞘の内」ともいい、刀を抜くことなく危難を脱することを至上の境地としています。
そういった精神は今も受け継がれ、「居合道」という現代武道として多くの人に愛好されています。