はじめに
日本の昔話には「大蛇」がよく登場します。
『古事記』に見られる有名な「ヤマタノオロチ」など、日本人の古い信仰には蛇が畏怖すべき異界の主だという観念があったのです。
確かに現代でも、手足のない蛇の独特な姿は不気味さを感じさせ、マムシなど毒のあるものは具体的な脅威でもあります。
しかし、古代の日本人は蛇に対してそれ以上の畏敬の念を抱いていたようです。
脱皮を繰り返して成長していく蛇は、「死と再生」を繰り返していく不死の象徴ともされ、実に神秘的な生き物として捉えられました。
そんな蛇への信仰観念は、はるか縄文時代にまでさかのぼることができるといいます。
縄文時代の蛇型意匠
縄文時代の遺跡からは、蛇の意匠を用いた特徴的な土製品が出土することが知られています。
祭祀用と思われる土器の縁から鎌首をもたげるかのような蛇や、とぐろをまいた蛇を頭に乗せた巫女型の土偶など、枚挙にいとまがありません。
また、状況は定かではありませんが、蛇の骨が中に入った状態の土器も発見されており、縄文人にとって蛇は特別な存在だったことがうかがえます。
実は、蛇に対する信仰のような観念は、日本独自のものではありません。
各国の創世神話などにも、蛇は世界の始まりに関わる神として登場し、人類にとってある種普遍的な信仰の対象だったとも考えられています。
「真の姿が蛇」という神様
日本の古代信仰の名残りは、創建の古い神社にも見受けることができます。
古く格式の高い神社には、その御神体や神様そのものが蛇だという、「蛇神」が多く存在しているのです。
代表的なところを三柱ご紹介しましょう。
縁結びで有名な島根の「出雲大社」は、その御神体を「竜蛇さま」と呼び、神聖な浜に漂着したウミヘビを、とぐろをまいた状態にして祀ります。
また、奈良の大神(おおみわ)神社は、三輪山を御神体とする神社であり、祭神の「オオモノヌシ」は蛇の姿をした神だと伝えられています。
長野の「諏訪大社」の祭神も本来は蛇の神だと伝えられ、「ミシャグジ」という土着の古代神の存在が有名です。
このように、日本人の基層信仰と深く結び付いている蛇神ですが、これには脱皮を繰り返して生命を更新する力への畏敬の念が関係しているともいわれています。
まだ人間の平均寿命が30歳程度だった縄文時代、大切な人たちといつまでも過ごしたいという、長寿への憧憬が現代人よりはるかに強かったのではないでしょうか。
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