謎だらけ。古墳時代の特殊鉄器「蛇行剣」

蛇行剣

<出典:キンタの青い空

はじめに

考古学では実際に「モノ」を扱うため、「実証の学問」とも呼ばれています。

出土した物を見比べたり、分類したりしてその時代における文化的な様相を推測していくのです。

ところが、中には用途や位置付けがよく分からない、「謎の遺物」というものも多く存在しています。

形そのものが特異であったり、出土点数が少なすぎたり、研究をしようにもそれ以上のことが分からない、という考古遺物です。

その中でも、今回は古墳時代に限って出土する「蛇行剣」という謎の鉄剣について、スポットライトを当ててみましょう。

「蛇行剣」とは

蛇行剣とは、その名の通り波状に屈曲した剣身をもった鉄剣です。

古墳時代のお墓から、つまり副葬品としてのみ確認されており、北限は新潟県、東限は栃木県、南・西限は鹿児島県、そして韓国に一例のみ出土しています。

2017年現在で、総数が70例あまりと極端に少なく、文字通り謎の鉄剣として研究が進められています。

剣身の屈曲回数は4~6回が多く、時代の古いものほど明確な蛇行が認められるという傾向があります。

また、「剣」だけではなく「短剣」「槍」「鉾」と思われるものもあり、数は少ないものの一定のバリエーションがあったことが分かります。

その特殊な形状から、実戦用の武器ではなく「儀仗具」としての位置付けが想定されていますが、世界の類例を見ると同様の波状剣身をもつ武器が実際に使われており、未解明の部分となっています。

奈良県から出土したものが最も古い部類になり、畿内では前方後方墳や大型の円墳、地方に波及するに従って古墳群の最初期に築造された前方後円墳からの出土例が多くなります。

また、南九州では特有の墓制である「地下式横穴墓」等から多く出土しています。

韓国での1例を除いては同時代の海外での出土例も報告されておらず、ますます謎が深まるばかりの考古遺物です。

蛇行剣諸説

この蛇行剣がいったい何であったのか、という点については様々な仮説が提示されています。

その形状から連想されるように、古代の日本で盛んだった「蛇神信仰」と関連する遺物だという説は、三輪や出雲、諏訪等、蛇の神と関わりの深い地域に近接した出土例もあり古くから想定されています。

また、宮崎県からは蛇行剣総数の約3分の1が集中して出土していることから、ヤマトの王権と隼人との関係に由来するものとも考えられています。

さらに、蛇行剣を出土した遺跡はいずれも大きな河川沿いや、交通の要衝となる陸路の分岐点などに立地していることから、交通網を掌握していた在地勢力への下賜品という考え方もされています。

いずれにせよ、まだまだ分からないことだらけの蛇行剣は今後の研究の進展が楽しみな、古墳時代の大きなミステリーのひとつです。

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