<出典:wikipedia>
はじめに
古来、人類は石を材料にしてさまざまな道具を作り出してきました。
ナイフや槍先、矢尻や斧等々、狩猟や工作のために必要なありとあらゆるものが遺跡から出土しています。
「石器時代」と呼ばれているその時代は、しばしば「原始的」と表現されることがあります。
しかし、出土した石器類をよく見てみるとそれらが本当に精巧かつ実用的に作られており、熟練した技術と高度な知性のもとに生み出されたものであることが理解されます。
ここでは、数ある石器の中でも「画期的」と評される、古代人の英知が詰まった「細石刃」と呼ばれるものをご紹介したいと思います。
「旧石器時代」とは
はじめに、細石刃が登場した「旧石器時代」について概観してみましょう。
旧石器時代の区分は世界の各国によって異なるため、統一的な定義付けは難しいのですが、日本においては縄文時代の前段階に当たる土器を伴わない時代を指します。
それゆえに、別名「先土器時代」や「無土器時代」とも呼ばれ、ごく大まかにはおよそ1万6千年前に終わりを迎えた時代と考えられています。
日本列島における旧石器時代の始まりについてはまだ解明されていませんが、この時代に高度な石器製作の技術が発達したことが分かっています。
「細石刃」とは
細石刃、または「細石器」「マイクロブレード」とも呼ばれる石器は、旧石器時代の終わりごろに登場し、縄文時代のごく初めの段階まで使われていました。
これは細長くて超薄型のカミソリのような石器であり、ものを切ることを目的としたタイプのものです。その刃はあまりにもシャープで、遺跡から出土した1万6千年前以上の石器でもいまだに手を切ってしまうほどの鋭さを保っていま
す。
世界最古級の出土事例はユーラシア大陸中央部のアルタイ地方ですが、その起源の解明は今後の研究の課題とされています。
日本列島での最も古い事例は北海道であり、その材料には天然ガラス質の「黒曜石」が使われています。
これは薄く鋭く加工することができ、ただ割っただけでもその剥片がそのままナイフとして使えることから、便利な石材として重宝されていました。
細石刃の使い方
細石刃はあまりにも薄くてコンパクトなため、その用途が当初ははっきりと分かっていませんでした。
しかし、世界の出土例からその使用法が徐々に判明し、細石刃とは旧石器時代の「替え刃式石器」だったことが分かってきたのです。
具体的な構造については、まずは動物の骨・角や木で平たい槍先状のものを作ります。
そして刃にあたる両側面に細い溝を設け、ここに細石刃を埋め込んでいきます。
そうすると、骨角や木でできた槍のベースに石製の刃部ができて、鋭い切れ味をもつようになります。
これを「植刃器」と呼んでおり、細石刃とは槍のブレード部を構成する部材だったのです。
ベースの槍部が健在であれば、細石刃が破損したり欠けたりしても交換することで性能を保つことができ、それゆえに「替え刃式」と表現されています。
おそらく旧石器時代の狩人たちは交換用の細石刃を用意して、それを幾度も槍先に装着し直しながら狩りを続けたのではないでしょうか。
細石刃は弓矢の登場によってその役割を終えていきますが、現代の刃物にも通じる「替え刃式」という優れたアイディアに驚きを禁じえません。