<出典:wikipedia>
はじめに
古来、仏教では殺生を禁ずる考え方によって肉食を避けてきました。
本来のお釈迦様の教えでは、「自分のために殺された動物の肉を食べてはいけない」というものでしたが、日本でも仏教思想の浸透に伴い、奈良時代には肉食を禁止する令が出されています。
しかし、生物学的に必要な栄養源は補給する必要があり、特に厳しく動物性たんぱく質の摂取を戒められた僧侶たちのために「精進料理」が工夫されてきました。
精進料理とは動物性の食材を一切使わず、野菜類を中心として雑念を払い、しかも健康にもよいという料理のことです。
健康志向に注目が集まる現代では、このような精進料理の考え方が再評価されています。
ここではそんな、魅惑の精進料理について概観してみましょう。
大豆たんぱくが大活躍
肉や魚を使わない精進料理では、野菜が主役の食材となります。しかしそれだけではどうしてもたんぱく質が不足するので、「大豆」が多用されることになりました。
100グラム中に含まれるたんぱく質量は、牛肉とほとんど変わらないといわれるほど、大豆には豊富なたんぱく質が含まれています。
味噌・醤油・豆腐・納豆などの大豆製品はいずれも仏教寺院で生み出されたとされており、僧侶の厳しい修行を支える栄養源として重宝されていたことが分かります。
これは日本人の伝統的な食生活においても同様であり、和食では獣肉をあまり使わないのに栄養バランスに優れているのは、この大豆たんぱくを上手に利用してきたという歴史があるからです。
天然のダシを上手に使う
精進料理と聞くと、なんとなく味が薄くておいしくないようなイメージを持たれる方も多いようです。
しかし、実際には淡白で素材そのものの味わいを活かしつつ、しっかりとした旨みを引き出す調理法が工夫されているのです。
それが和食では魂とまでいわれるダシのとり方です。
精進料理ですので、もちろん動物性のものは使いません。
ただし昆布や椎茸、炒り大豆など旨みの強いものを組み合わせるため、深みのあるしっかりとした味付けが可能となります。
また、珍しいところでは「かんぴょう」の戻し汁をダシとして利用し、これも強い旨みを引き出すことのできる素材です。
五葷(ごくん)はタブー!
動物性の食材を使わない精進料理ですが、植物性のものであっても使ってはいけないとされる食材があります。
それを「五葷(ごくん)」といい、ニラ・ニンニク・ネギ・タマネギ・ラッキョウといった臭いと刺激の強い香味野菜のことを指しています。
これらを食べると精がつきすぎて雑念が増え、修行の妨げになると考えられたのです。
しかしそれを差し引いても精進料理は栄養バランスがよく、現代に生きるわたし達も大いに学ぶべき知恵にあふれています。