<出典:wikipedia→柳生新陰流>
はじめに
かつて武士は、さまざまな武術を身に付ける必要がありました。
彼らが修練した技は扱う武器や想定する状況ごとに分類され、「剣術」や「弓術」「柔術」などとして体系化され、なかには現代にまで脈々と伝えられているものもあります。
明治以前の運動競技化していないそういった武術を「古武道」や「古武術」と呼んでいますが、その技をひもといていくと当時の武士たちが危機的状況を想定してそれに対応する訓練を行っていたことがよく分かります。
それは尋常の立会いばかりではなく、突然の敵襲に備えるという護身的なシチュエーションも含まれているため、武士の世を文化史的な側面から考えるための大きなヒントとなっています。
ここでは、そんな古武術に伝わる戦闘時の想定状況についてみてみましょう。
【尋常】 異常なところもなくごく普通なこと、乱れていないさま、取り乱さないさま |
寝ているところを襲われる
戦術の一つに「夜討ち」があります。
したがって武士にとって無防備になる就寝時は危険な時間帯でした。
数々の武術流派では、このように眠っているときに突如襲われた場合の対処法を示しています。
室内であること、暗がりであることなどを前提として技が組み立てられ、流派によっては緊急時に備えて普段から大刀をどのような位置で抱いて眠るか、小太刀や着替えの衣服を枕もとのどのあたりに置いておくか、といった心得もしめしています。
実際にはどの程度現実的なものだったのかは分かっていませんが、当時の武士たちの心境を考えるのにはとても興味深い事例です。
狭いところで戦う
いざ戦闘、となったとき、そこがたとえどんな場所であっても生き残るために戦わなくてはなりませんでした。
それは必ずしも広くて見通しがよく、足場のよい場所ばかりではありません。
したがって、戦うのに不利な環境下でも最適な戦法を選んで対処するのも重要な技だったのです。
古武術に伝わる戦闘状況の想定では、狭いところでどのように戦うか、というパターンがよく登場します。
・狭隘路ですれ違いそうになった相手が襲ってきた
・階段の下から相手が切りかかってきた
・自身が天井の低いところに潜んで目標を狙う
・一方が壁になっているところで戦う
リアルで多彩なシチュエーションが想定されています。
武術では予測不能な危機に陥ったとき、いかに的確に対処できるかという回避能力や応用力を学ぶことも求められました。
一見無理な状況をあえて考えることで、そういった修練を行っていたのです。
多人数の敵と戦う
現代の運動競技としての武道では、一対一の試合が前提となっています。
しかし、かつての武士たちは戦場では無数の敵を相手にする必要があり、また複数の敵に囲まれる危険もあったため、対他人数戦の研究も怠りませんでした。
古武術には複数の敵と戦う際に、いかに上手くタイムラグを作り出して一斉に攻撃されることを避けるか、または地形や環境を活かして一人ずつを相手にしていくような方法が伝えられています。
このように切実な状況は、武術に込められた武士たちの生き抜く意思を感じさせるのに十分な説得力をもっています。