きらびやかな吉原遊郭の裏側で。性に関する切実な問題。

<出典:wikipedia

江戸時代の娯楽の一つに、吉原遊郭での豪遊というものがありました。
豪華絢爛な吉原遊郭は、江戸の中にありながら江戸とは異なるルールで動いている異世界のようなものでした。
地方から江戸にやってきた人は「せっかく江戸まで来たんだから、吉原で人気の花魁を眺めにいこう」と言って吉原見学を楽しんでいたと言われていますので、今で言うところの大型テーマパークのような扱いだったのかもしれません。

そんな華やかな吉原遊郭には、何千人もの遊女たちが文字通り体を使って働いていました。
そして、そこで働く遊女たちを悩ませ怖がらせていたのが「性病」「月経」「妊娠」でした。

月経をどう乗り切っていたのか?

10代になった頃に始まる月経は、一か月の内、約4~7日間に渡って訪れます。
当時の女性たちは紙を折って局部に当て、その上から男性の褌(ふんどし)のようなものを締めて血が垂れないようにしていました。
折りたたんだ紙を直接局部に挿入するということもあったようです。

江戸時代は性に対してとても奔放でしたが、月経になっている間だけは夫婦間でも性行為を控える傾向にありました。
かつて月経は『穢れ(けがれ)』とされることがありましたので、それに由来するのかもしれません。

遊女も同じように性行為を自粛していたかというと、それは難しかったのではないかと考えられます。
遊女たちには莫大な借金が背負わされており、それを返済していかなければなりません。
遊女を抱えている妓楼も、働いてもらわないと売上になりませんから、なんとしても稼いでもらわないといけません。
遊女たちには生理休暇のようなものはほとんど無かったと考えられます。

遊女のほぼ100%は性病にかかっていた?

まともな避妊具の無かった江戸時代、一般人の約50%は性病にかかっていました。
日本に来た西洋人医師たちは「どうしてこんなに罹患者が多いのだろう」と驚いたといいます。

このような時代でしたので、毎晩性行為をしていた吉原の遊女たちは、ほぼ100%梅毒や淋病にかかっていました。
特に多かったのが梅毒でした。
梅毒は抜け毛や性器の異常などの初期症状から、一定期間の潜伏期間(約3年くらい)を経て皮膚や筋肉にゴムのような腫瘍ができ、やがて臓器や骨や脳を蝕み死亡します。
現代では潜伏期間前に治療されてしまうので、死亡する事は非常に稀です。

梅毒は一般的な病気に比べて進行も遅く潜伏期間が長いので、潜伏期間に入って「もう治った!」と勘違いされていたのでしょう。
吉原では梅毒は一度かかると二度とかからないと信じられており、梅毒になった遊女は一人前で商品価値が高い貴重な存在とされていました。
しかし、数年後には症状は進行し、顔や体は醜く崩れ精神にも異常をきたしていきました。
そして性病にかかった遊女は、このような悲惨な病気の進行に耐え切れずに自殺するか、合併症で死亡することが非常に多かったといいます。

遊女は妊娠したらどうするの?

避妊をしないで性行為をしていたにも関わらず、吉原で働く遊女たちが妊娠する確率はそこまで高くなかったようです。
これは性病と過酷な労働環境で不健康な状態だったため、若い娘であっても妊娠しにくい体になってしまっていたものと考えられます。
ですが、やはり妊娠する遊女はいました。

遊女を抱えている妓楼にとって遊女の妊娠は厄介なものでしたから、医師を呼んで色んな方法で堕胎させました。
よく使われていた方法は、ほおずきの実を使って堕胎させる方法です。
ほおずきにはヒストニンという子宮の緊縮作用がある成分が含まれており、これを飲んで流産させるというものです。
他にも「冷水に何時間も浸かる」「串を局部に挿入し子宮を突き刺して流産させる」「水銀を飲む」といった恐ろしい方法がありました。

しかし中には出産する遊女もおり、生まれた子が男の子の場合はよそに里子に出されました。
女の子の場合は遊女として将来働かせるため、遊郭の中で育てられたそうです。

遊女の辛い現実

遊郭で働く遊女たちのほとんどは、地方の貧しい農家から売られてきた娘たちでした。
田舎の家族のため……と過酷な労働を強いられていた娘たちの、こういった影の部分を知ると、吉原遊郭の絢爛さがとても刹那的に見えてきます。

性病や妊娠といったものを犠牲にしてるのだから、さぞかし稼いでいたのだろうと思われがちですが、実際は収入のほとんどを妓楼に取られてしまい、手元に残るお金は微々たるものでした。
また、一生懸命働いて借金を返済して里に帰れるかというと、それも難しく、年季明けの27歳になる前に病気で亡くなったり、借金を返せず27歳を過ぎても他で体を売って働かなくてはならず、一生吉原から出られない……という悲しい現実がありました。

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