【博打子聟入事】中世のブサイク青年、結婚詐欺をはたらく!

13世紀前半に成立したと言われる『宇治拾遺物語(うじしゅういものがたり)』は、中世の日本の説話を集めた説話文学の傑作です。
『今昔物語』と同様に、当時の人々の暮らしが生き生きと表現され、当時の風俗を知る上で貴重な資料でもあります。

さて、今も昔も結婚詐欺というのはあったようです。
ご紹介するのは『宇治拾遺物語』に登場する博打打ちと、その息子の起こしたおかしな結婚詐欺事件「博打子聟入事(ばくちのこむこいりのこと)」です。

博打打ち、詐欺事件を計画する

昔、ある博打打ちに、目鼻が顔の一箇所にくしゃっと集まった顔をしたひどい顔の息子がありました。
彼の両親はそのあまりのブサイクさに、息子の将来を案じていました。
ある時お金持ちが、大切な娘の結婚相手を探しているということを耳にします。
そこで、博打打ちとその妻は計画を立て実行。
「天下一の男前が婿になろうと申しています」と金持ちの娘に結婚を申し込んだのです。
お金持ち一家は、大変喜んでさっさと結婚式の日取りまで決めてしまいました。

まんまと金持ち娘と結婚した青年

ブサイクな青年と博打打ち夫婦の作戦は、とにかく青年の顔を嫁側の人々に見せない、というものでした。
当時の結婚形式は「通い婚」です。
夫婦が一緒に暮らすのではなく、夫が妻の家に通う形式がふつうでした。
昼間に顔を合わせなければ、ブサイクな顔を見せなくてもやり過ごせる、そう考えたのです。

嫁となる娘の金持ち一家は、なかなかおめでたい性格だったらしく、博打打ち一家のことを疑いません。
婚礼祝いの夜、着飾った(借り物の衣裳ですが)婿の顔を見ることができないことも、博打仲間が大勢集まってきたことも全て善意に解釈。
婿一家のことを「奥ゆかしい名家なのだ」と思い込んでいました。
ブサイク婿は結婚後も、金持ちの妻の家に夜にだけ通って顔を見せない生活を続けました。
とはいえ、全く顔を見せずに結婚生活が長く続けられるはずがありません。
とうとう昼間に顔を見せないわけにいかない状況が近づくと、ブサイク婿は博徒仲間に協力を頼んだのでした。

仕上げの大博打

ある夜、夫婦が寝ていると、天井をぎしぎし踏みならす音がして、恐ろしい鬼の声が響いてきました。
「天下一の美男子よ」
そう呼ぶ声に婿がおそるおそる応えると、鬼は「3年も前から自分のものだった女をお前が横取りしたので仕返しする」と言うのです。
「命と顔とどちらが惜しいか」と尋ねる鬼。
青年の舅、姑は、「命だけあればそれで良い。『惜しくないのは顔です』と言いなさい」と青年に助言します。
婿がその通りに応え、鬼が「では吸う吸う」と言った途端、婿は顔をかかえ、叫びながら転げ回りました。やがて鬼が去り、皆でろうそくの火に照らされた婿の顔を見たところ、目と鼻が一箇所にまとまってくしゃっとした顔になっていた、というわけです。
もちろんこれらは全て婿側が博徒仲間に頼んで仕組んだお芝居でした。

その後の婿の生活

「命が惜しいばかりに、ひどい顔になってしまった。こんな恐ろしい鬼が通っている娘と結婚したのが間違いだった!」と恨み言を言う婿。
そこで、金持ちの舅は気の毒に思って婿に宝を与え、立派な家まで建ててやったので、その後彼はとても裕福に暮らせたということです。
まんまと良い暮らしを手に入れたブサイク青年。
人々が鬼を信じ、魔力を信じた時代だったからこそ成立したこんな詐欺!博打は大成功でした。