渋沢栄一。まげからシルクハット、刀をステッキに変えて。

<出典:FNN PRIME

2024年から発行される日本の新札1万円の顔となった渋沢栄一。
サムライから日本の経済界を大きく前進させた実業家へと変身した人物です。
しかし彼の心は、常にある倫理観を尊ぶ気持ちがありました。
実業家としての彼に大きく影響を与えた考え、それはなんだったのでしょう。

渋沢栄一の功績

まずは、彼が明治の日本にもたらした具体的な功績を見てみましょう。

【大蔵省】
1869年に大隈重信に説得されて大蔵省に入省。
大蔵官僚として度量衡の制定や国立銀行条例制定など日本経済の根幹となる業務に従事。
【実業界】
第一国立銀行(現みずほ銀行)の頭取に就任。
その他多くの地方銀行、保険、鉄道、食品、ホテル、貿易など多種多様の企業の設立に携わる。
その数は500を越えると言われる。
【社会貢献】
養育院(現東京都健康長寿医療センター)の院長を務めたほか、東京慈恵会、日本赤十字社などの医療、社会福祉などの組織設立にも関わり、災害復興にも力を入れた。
【教育】
実学教育の必要性を訴え、商法講習所(現一橋大学)、大倉商業学校(現東京経済大学)の設立、さらには現在の二松學舎大学、国士舘大学、同志社大学、日本女子大学などの設立にも関わった。

ここにご紹介したのは渋沢栄一の事業の一部です。
これだけでも驚くほどの量と幅広さですね。
渋沢栄一は、何をきっかけに、どうやってこれらを成し遂げたのでしょうか。

商才を培った少年時代

1840年2月13日に武蔵国榛沢郡血洗島村(現在の埼玉県深谷市血洗島)の豪農の長男として誕生した渋沢栄一。
米や野菜を作るのと同時に、藍の葉を仕入れて作る藍玉という固形化した染料を販売していた農家の子でした。
そんなわけで、彼は少年時代から金の出入りに敏感で、一人で仕入れに出掛けるなど商業的な感覚を培っていきました。

また、従兄の尾高惇忠の元では『論語』などの四書五経で儒学を学び、『日本外史』で日本の歴史を勉強しました。
江戸では儒学者・海保漁村の門下生となり、剣術は神道無念流のベースの上に、北辰一刀流の千葉道場にも入門。
世相に敏感な勤皇の志士たちとも交流しました。
その影響で、一度は長州と連携した倒幕計画を立てるほど過激思想を持ったこともありました。

好奇心と実行力を持って京へ、そしてパリ

勤皇の志を持った渋沢は、京へ出ます。
しかし、ときは1863年の八月十八日の政変直後。
勤皇派の活動は沈滞しており、彼の尊皇攘夷活動は行き詰まります。
そこでなんと、知人の推薦があり、一橋慶喜に仕えることになりました。
いきなり勤皇派から幕府側に仕える驚きの展開です。
一橋慶喜はその後将軍・徳川慶喜となり、渋沢も幕臣となりました。

1867年のパリ万博。
慶喜の異母弟・徳川昭武の随員として、渡航するチャンスが到来しました。
これが渋沢の運命を変えました。
渋沢はパリ万博のみならず、ヨーロッパ各国の先進的な産業、軍備、そして社会を見る機会を得たのです。
シーボルトの長男・アレクサンダーに語学を学ぶという恵まれた環境でもありました。
しかし1868年。
徳川慶喜による大政奉還後に帰国します。
彼を送り出した江戸幕府がなくなったのです。

慶喜に賜った「おまえの道を行け」の言葉

帰国し、すでに将軍ではない徳川慶喜と面会した渋沢。
慶喜に「もう私に出仕しなくてよい。これからはお前の道を行きなさい」と言われます。
自由な立場となった渋沢は、政府に拝借していた金を返金するために会社を設立し、欧州で学んだ株式会社制度の実践などを始めました。
その後の活躍は、上記の功績の通りです。

「道徳経済合一論」つまり「論語とソロバン」の精神

これほど多くの事業に関わった渋沢ですが、個人的な欲を持たない人物でした。
政界への野望はなく、地域発展のために深川区会議員だけは15年間務めましたが、貴族院議員になってもすぐ辞任し、大蔵大臣としての入閣を求められた時も辞退しています。

渋沢の行動には、彼の著書『論語と算盤』に述べられた「道徳経済合一論」に基づく一貫性がありました。
彼は、「経済の発展は利益を独占するためのものではなく、国を豊かにするべきものだ」と、富が社会に還元されることを説きました。
幼い頃から親しんだサムライとしての教養、「仁・思いやりの心」「礼・感謝の気持ち」などを尊ぶ『論語』が、渋沢の倫理観の根底にあったのです。
1931年、渋沢は91歳にて死没しましたが、財閥を作るなど巨額の私財を貯め込むことはありませんでした。

ちょんまげからシルクハット、日本刀をステッキに替えて「近代日本資本主義の父」となった渋沢栄一。
持ち前の好奇心と実行力で服装や活動は西洋化し、近代化したやり手の実業家の精神的バックボーンは、武士として学んだ『論語』の倫理観だったのです。