「庶民の剣」と呼ばれた馬庭念流。手作り防具の伝統稽古

はじめに

日本の剣術には数多くの流派がありますが、そのルーツをさかのぼっていくと概ね三つの流派の系統に行き着くといわれています。

「日本兵法三大源流」と呼ばれる流派であり、「陰流」「神道流」「念流」の三流派を指しています。

これらは伝承の過程でさらに多くの新流派のベースとなり、「陰流」系では「柳生新陰流」、「神道流」系では「香取神道流」などの有名な兵法が生まれています。

そして、「念流」系では現在も脈々と伝わる「馬庭念流(まにわねんりゅう)」という流派が知られています。

ここでは、馬庭念流とはいったいどのような武術であるのか、その概要をご紹介したいと思います。

「馬庭念流」とは

馬庭念流は戦国時代~安土桃山時代の兵法家である樋口定次を祖とする、剣術を表芸とする武術流派です。

樋口定次は「念流」の第八代継承者で、そこに槍術や薙刀術を加えて独自の工夫も加味し、現在の群馬県高崎市の馬庭の地に道場を開きます。

そしてこれを代々樋口家が伝承してきたことから「馬庭念流」と呼ばれるようになりました。

また、上州地方を中心に、庶民階層の門弟を広く受け入れたことから「庶民の剣」ともいわれています。

 

技の特徴は、非常に防御の堅い太刀遣い。

相手を倒すことそのものよりも自身の身を守ることを第一義としているためです。

足を進行方向にまっすぐ向ける現代剣道とは異なり、大きくハの字型に足を開いてぐっと腰を落とした構えはまさしく古流剣術の風格を伝えています。

また、剣を斜め前に突き出して身体全体を守るような独特の構えをとり、これによって相手の斬撃の軌道を逸らせるという技も注目されます。

馬庭念流ではこれを「しんをとる」と表現し、技が完全に決まれば逆にこちらの切っ先が相手を捉えるという精妙な術でもあります。

さらに剣術とならんで槍術や薙刀術も併伝していますが、一般的な左半身とは異なり右手を前にした右半身に構えることが特徴です。

手作り防具での試合稽古

馬庭念流では古くから防具と竹刀を用いた打ち込み稽古を行ってきたことも知られています。

もっとも、厚手のクッションを設けたヘッドギア状のものと、両手を守る布製の篭手をまとい、竹を皮革で包んだ袋竹刀を使うというスタイルで、現代剣道における道具とは様相が異なります。

すべて修行者自らが作成するといわれ、形稽古と並行して、実際に打ち合えるように工夫をこらした古式の剣術稽古の様子を伝える貴重な文化遺産でもあります。

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