知的なクイズ? 浮世絵師・鈴木春信からの挑戦

<出典:wikipedia

江戸時代中期に、美人画で一世を風靡した浮世絵師・鈴木 春信(すずき はるのぶ)。
春信の作品の中には、単なる美人画ではない、暗号のようなクイズのような絵がありました。
春信の作品を楽しむには、そこからスタートしても良いかも知れません。

クイズ的な春信の絵の楽しみ方

活動期間はたった10年。
残された作品のほとんどが海外に所蔵され、日本ではめったにお目にかかれない幻の浮世絵師。
それが鈴木春信です。

春信の絵には美人画だけではなく、文字や絵の原典の主題が隠されている暗号のような絵があります。
それらは絵暦(えごよみ)や見立絵(みたてえ)と呼ばれたりします。

<出典:ボストン美術館

1. 絵暦とは

現在の暦とは違って、当時は太陰暦。
毎年30日ある大の月・29日の小の月が変わるので、それを忘れないように絵で月の大小を表した絵暦というものがありました

例えば、『夕立』という作品は、急に降り始めた雨にあわてて洗濯物の浴衣を取り込む娘の絵です。
「風雨にはためく浴衣と娘の着物」という構図だけでも動きがあり面白いですが、よく見ると、浴衣に描かれた柄は、その年と大の月を示す文字になっています。
それに、少女の帯にも小さな文字が隠されていて・・・。

この絵に暦としての実用性はあまりありません。
しかし、そうした面白さと、絵としての美しさで鈴木春信の人気が爆発。
のちの錦絵が大流行するきっかけとなりました。

<出典:ボストン美術館

2.見立絵とは

見立絵とは、古今東西の故事説話から得た題材を当世風俗に置き換えて描いたものです。
その故事説話を知らなくても絵の美しさを堪能することはできますが、何を意味した絵なのかがわかればもっと楽しめます。

例えば、『見立玉虫 屋島の合戦』『見立那須与一 屋島の合戦』と呼ばれる作品。
これらはもともと一組の作品です。

源平の屋島の合戦の時に、船に乗った平氏の女性が日の丸の描かれた扇を竿の先にはさんで掲げ、陸の源氏に「射てみよ」と手招きします。
すると那須与一(なすのよいち)が見事扇を射落としたという『平家物語』の話。

鈴木春信はこの話から2枚の絵を描きました。

【左】女性が船に乗って日の丸が描かれた扇子を掲げ持っている
【右】青年は弓に恋文らしき手紙をつけた矢をつがえている。

二人のこれからの恋を予感させる絵となっています。
そしてよく見れば、青年の背後にあるのは那須与一を連想させる茄子(なす)畑があるのです。

春信からの挑戦

鈴木春信がよく描いたのは若い男女の恋の姿でした。
男女共に華奢で可憐な姿で描かれたため、ぱっと見ても性別が分かりません。
さらりと表現された生々しさのない絵の中ですが、
男女のぶつかる視線、乱れた着物の裾、触れそうで触れない手と手などの瞬間が切り取られています。

クイズのように絵暦や見立絵を楽しませるのと同様に、さりげない光景の中に秘められた瞬間を訴えかけてくる・・・。
それは売れっ子浮世絵師が私たちに「わかる? わかるよね?」と迫ってくる挑戦のようです。