厳島神社の至宝『平家納経』。セレブ平家による豪華な経。

平安時代。
平清盛を中心とした平家一門が、その繁栄を願って厳島神社に奉納した経典類があります。
その総称が『平家納経』。
33巻からなるその経典と経箱・唐櫃(からびつ)は、平家の栄華を表わすかのように贅を尽くした美術工芸品と呼ぶべきものでした。

『平家納経』の中身

33巻の『平家納経』は、次のような構成でした。

・平清盛が自ら筆をとって奉納の趣旨を書いた「願文」1巻
・一族の人々が書写した『法華経』30巻
・『阿弥陀経』1巻
・『紺紙金地般若心経(こんしきんじはんにゃしんぎょう)』1巻

厳島神社の祭神が十一面観音の化身であるという信仰があり、「33の姿に変化して人々を救う観音菩薩」にちなんで、合計33巻となっています

国宝『平家納経』

1164年に厳島神社に奉納された『平家納経』は、全体が完成したのが1167年。
平安時代に多くの貴族たちの発願によって制作された装飾経と呼ばれる種類の経典の代表作です。
1954年には、「当時の工芸技術の高さ、素晴らしさを現代にまで伝える一級史料」として、国宝に指定されました。
現在も、厳島神社に所蔵されています。

『平家納経』は、平家の一族が筆写したのですが、その中にはもちろん平清盛、嫡男の重盛、異母弟の頼盛(よりもり)や教盛(のりもり)などがいました。
当時のセレブメンバーによる写経には数々の見どころがあります。

1.紙が贅沢!
経典を書写したその紙は、料紙という書の用紙です。
さまざまな色に染めて文様が刷られ、箔と呼ばれる金銀を薄くのばしたものをちりばめ、雲母を砕いた砂子(すなご)を散らし、きらきらとした輝きを持つ画面を創り出していました。
使われた材料一つ一つが高価で豪華。
さすがセレブです。

2.『源氏物語絵巻』を彷彿とさせる絵
経典の表紙や見返しに描かれた絵は、伝統的な「やまと絵」。
人物、風景、花や鳥までがとても色鮮やかで、人物は「引目鉤鼻(ひきめかぎはな)」と呼ばれる様式化された細い目、くの字の鼻、下ぶくれの顔と小さな赤い口。
ほぼ同時代に描かれた国宝『源氏物語絵巻』とよく似た画風です。

3.個性が見られる写経の文字
書写された経文の文字は、密教の5つの要素を重ねた五輪塔に見立てられ、整然としたラインと円の中に書かれています。
経文の文字の色を数文字ごとに群青、金泥、銀泥と変化させているのがとても贅沢。
そして、よく見てみれば平家一門32人の老若男女が書いた美しい文字、たどたどしい文字からは、書いた人々のクセや個性が分かります。

平家パワー全開の信仰の形

『平家納経』が作られた平安時代後期は、貴族や上層武士たちの間で美しく装飾されたお堂、仏像、経典などを多く作れば作るほど仏に救われると信じられていました。
そのため、『平家納経』が、納める経箱や細かな材料にまで贅を尽くして美しく仕上げられました。
それは同時に最高の美術品を創り上げた平家のパワーを世に知らしめました。

※広島・厳島神社/平家納経、金銀荘雲龍文銅製経箱、蔦蒔絵唐櫃【国宝】(平安時代)